この難易度基準、2002年の春に画期的な改定が行われた。
従来の基準では、特殊な道具を使用しない一般的な登山・トレッキング・山歩きと、特殊な道具(ザイルをはじめとする確保・登攀用具、アイゼン・ピッケルなどの雪上装備)を使用する「高所登山(アルパインルート)」が区別されており、したがって基準も2種類に分裂していた。
ところが装備や技術の進化が進み、岩登りを含むあらゆる登山形態がどんどん大衆化・一般化していくなかで、従来の「一般・本格」の区別があまり意味をなさなくなってきてしまった。
そこで、スイス山岳会は登山哲学の一大方向転換に踏み切った。
一般・本格の垣根を廃止し、難易度の一元的な基準を採用することにしたのだ。また、低山トレッキング中の事故増加をかんがみ、新基準はさらに細かく厳しくなっており、思想の違いから旧基準とは一致しない部分がある。
ただし、国際的な認知度の高いアルパイン・ルートの難易度基準すべてをカバーするにはいたっておらず、難しいルートは従来の基準がそのまま用いられている。ロッククライミングや山スキーの基準も、それぞれ専用のものが設けられている。
スイス山岳会はガイドブックの改訂版を発行するたびに新しい難易度表記に改めているが、現在は古い基準と新しい基準が混在している状態だ。筆者の所有しているガイドブックも古いものは旧基準なので、本サイトの難易度表記もしばらくは新・旧両方の基準を両方使わざるをえない。
以下、それぞれの難易度について説明していこう。ちなみに新基準のイニシャルTは、Tourismの略だ。

ルートは非常によく整備された歩道で、地形はほとんど平らか、緩斜面。滑落の危険はない。特別必要な装備はなく、普通の運動靴でも歩ける道。ルートファインディングの必要もなく、地図を持たずとも歩ける。
参考ルート:
■メンリッヒェン(Männlichen)〜クライネ・シャイデック(Kleine Scheidegg)
■ヴェルミーゲル小屋(Vermigelhütte)
■ユラハウス(Jurahaus)
■モン・リムー小屋(Cabane Mont Rimeux)
■レヴェンティーナ高道(Strada Alta Leventina)

ところどころ判然としない歩道か山道で、規則的にゆるやかに登り続けるようなルート。ところどころ急な斜面もあり、滑落の危険性がまったくないとは言いきれない。ある程度の体力・バランス感覚と、基本的な読図能力が必要。軽登山靴推奨。
参考ルート:
■ヴィルドホルン小屋(Wildhornhütte)
■ベルグセー(Bergsee)
■テーシュアルプ(Täschalp)〜テーシュ(Täsch)
■クリスタリーナ小屋(Capanna Cristallina)
■グラン・コル・フェレ(Grand col Ferret)
■ベッラ・トーラ(Bella Tola)
■ミル峠小屋(Cabane du col de Mille)

判然としない箇所があるものの、基本的には山道。滑落の危険があるような急斜面、ザレ場、不安定な足場などが出現する。危険度が高い場所にはフィックスロープ、鎖、ハシゴ、手すりなどが設置されている。手による支えが必要な場合もある。
しっかりした体力・バランス感覚、中程度の読図能力と、登山経験が必要。軽登山靴が必要。
参考ルート:
■パ・ダンセル(Pas d'Encel)〜シュザンフ峠(Col de susanfe)〜サランフ(Salanfe)
■フネートル・ダルペット(Fenêtre d'Arpette)
■ホートゥールリ(Hohtürli)
■ゼフィネンフルーゲ(Sefinenfurugge)
■フリュンデン小屋(Fründenhütte)
■グローサー・ミーテン(Grosser Mythen)
■ピッツォ・チェントラーレ(Pizzo Centrale)

ところどころ道の無い箇所がある。登るために手を使わなければならない箇所がある。虚空に晒された箇所が多く、草に覆われた急斜面や不安定な足場、雪に覆われていない簡単な氷河などが現れる。
岩登りの基礎(三点確保)に習熟し、十分なバランス感覚、地形を目で見て読み取る能力と高所登山の経験が必要。ハードタイプの登山靴(重登山靴)が必要。
参考ルート:
■グラン・タヴェ(Grand Tavé)
■サネッチ峠(Col du Sanetsch)〜アルペリシュトック(Arpelistock)
■ベルトル小屋(Cabane de Bertol)
■シュレックホルン小屋(Schreckhornhütte)
■ドッセン小屋(Dossenhütte)
■ミシャーベル小屋(Mischabelhütte)
■フォーラルプ小屋(Voralphütte)〜ベルグセー小屋(Bergseehütte)縦走
■フォールダー・グレールニッシュ(Vorder Glärnisch)
■シュテークホルン(Steghorn)
■リーゼングラート(Lisengrat)
■キャニル南乗越(Pass Casnile Sud)

地形を確実に読み取る能力、優れた読図能力、高所登山の十分な経験が必要。基本的なピッケルとザイルの操作ができなければならない。要重登山靴。
参考ルート:
■ダン・ブランシュ小屋(Cabane Dent Blanche)
■ボルディエー小屋(Bordierhütte)
■ビュットラッセ(Büttlasse)
■サルビット避難小屋(Salbitbiwak)
■スーステンヨッホ(Sistenjoch)
■ピッツォ・カンポ・テンチャ(Pizzo Campo Tencia)
■カッチャベッラ峠(Col de Cacciabella)
非常に優秀な地形読取能力が求められ、高所登山の特殊装備と技術に習熟していることが必要。
参考ルート:
■ピエールダール避難小屋(Refuge de Pierredar)〜セ・ルージュ(Sex Rouge)
■オステック小屋(Ostegghütte)
■ヴェルザスカ高道(Via alta della Verzasca)
■ピッツ・リナルド(Piz Linard)
■グレールニッシュ(Glärnisch)のギュッペン稜(Guppengrat)
■L(Leicht、独語。以下同)/F(Facile、仏語。以下同):
簡単。岩壁がある場合、II程度までの難易度。新基準のT4にほぼあてはまる。
■WS(wernig schwierig)/PD(Peu difficile):
少しだけ難しい。岩壁がある場合、II前後の難易度。新基準のT4〜T6に相当するものがある。
■ZS(ziemlich schwierig)/AD(Assez difficile):
かなり難しい。岩壁がある場合、III程度の難易度。新基準のT6で、このレベルに相当するものがある。
■S(sehr schwierig)/D(Difficile):
難しい。IV程度の難易度。
■BS(besonders schwierig)/TD(Très difficile):
すごく難しい。V程度の難易度。
■AS(äussert schwierig)/ED(Extrêmement difficile):
異常に難しい。V以上の難易度。
■EX(Exeptionnellement difficile):
AS/EDよりもさらに難しい、例外的な新ルート。
■B(Bergwanderer)/P(Piéton):
新基準のT1相当。特別な危険や困難の無いハイキングルートで、黄色の道標。
■EB(Erfahrener Bergwanderer)/PE(Piéton expérimenté) :
新基準のT2〜T4相当だが、やや定義が異なる。虚空にさらされた箇所や狭い稜線歩きなどを含む登山道で、バランス感覚を要求される。また降雪後などはデリケートな場所での雪上歩行技術が必要。しっかりした登山靴が不可欠。難しさにかなりの幅があり、ごくふつうの登山道はほとんどすべてこのカテゴリーに入れられていた。マーキングは白・赤・白。
■BG(Berggänger)/RE(Randonneur expérimenté) :
新基準のT4〜T6相当だが、このカテゴリーに入れられていたルートは非常に稀だった。場所によってはルートが判然としておらす、短い岩登りも出現する。悪天候の場合は足場がかなり不安定になり危険度が高くなる。アイゼン歩行が必要な場合、アンザイレンするのが必要な場合もある。マーキングは白・赤・白。